ラブキン氏の話は多岐に渡ったが、印象に残ったのは、最近のイスラエル/パレスチナをめぐる政治情勢について、概して「楽観的」な評価が目立ったことだ。
 つまり、イスラエル国家の正当性legitimacyが、現在、確実に揺らぎつつあるという指摘である。それは、世俗的・宗教的の違いや居住地を問わず、ユダヤ人のなかにおいても、さまざまなかたちで表面化しているし、非ユダヤ人においても、たとえば、BDSキャンペーンといったかたちで明確に現れているという。ラブキン氏が特に興味深いとしたのは、ユダヤ人のなかからの反シオニズムの声の多くが、「Not In My Name」という団体名があるように、ユダヤ(教)の名の下でイスラエル国家が犯罪行為を犯すことについて、抗議するというかたちをとっているということである。こうしたシオニズムへの抗議は、もともと正統派ユダヤ教徒のなかで伝統的だったものであるが、同じような主張が、世俗的ユダヤ人の運動にも見られるという点に、歴史的な必然性をラブキン氏は見ているようであった。イスラエル国家はユダヤ人/ユダヤ教徒を代表し得ないという氏の主張に多くの人々が耳を傾けつつあるということ自体が、シオニズムの評価をめぐる不可逆的な転換が起こりつつあることの証左でもあるように思う。




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役重善洋(京都大学修士課程)